老化は顔のシワより先に「歩く速さ」に出るかもしれない

最近、駅や街中で人に追い越されることが増えた。

以前より歩幅が狭くなった気がする。

階段や坂道を、無意識に避けるようになった。

家族や友人から「歩くのが遅くなった」と言われた。

一つでも当てはまるなら、少しだけ注意が必要です。

老化というと、多くの人は顔のシワや白髪、たるみなど、見た目の変化を想像します。

しかし、体の機能低下は、見た目より先に歩く速さへ表れているかもしれません。

歩く速さは、単なる脚力ではありません。

筋力、バランス能力、心肺機能、神経、脳と体の連携。

こうした全身の機能を使って、初めて人は安定して速く歩けます。

つまり、歩く速さは、

体力の総合点

と言ってもいいのです。

歩く速さは、脚力だけでは決まらない

速く歩くためには、まず地面を押す脚の筋力が必要です。

しかし、筋力だけでは足りません。

歩いている間、人間は片足立ちを繰り返しています。

右足を前に出しているときは左足で体を支え、左足を前に出しているときは右足で支える。

この動作には、バランス能力が必要です。

さらに、歩くスピードを上げれば、心拍数も上がります。

呼吸をしながら全身へ酸素を送り続けるため、心臓や肺の機能も関係します。

そして、目で周囲を確認しながら、脳が足を動かすタイミングを判断する。

歩くという動作は簡単に見えますが、実際にはかなり複雑です。

  • 下半身の筋力
  • 体幹の安定性
  • バランス能力
  • 心肺機能
  • 神経の反応
  • 脳と体の連携

これらが組み合わさって、歩く速さが決まります。

だからこそ、歩く速度が落ちてきたときは、脚だけではなく、全身の機能が少しずつ低下している可能性があります。

歩くのが遅い人は、ほかの体力も低い傾向がある

45歳前後の男女を調べた研究では、歩く速度が遅い人ほど、

  • 握力
  • 片足立ちのバランス
  • 椅子から立ち上がる能力
  • ステップ運動の成績

なども低い傾向が示されています。

もちろん、歩くのが遅いからといって、すぐに病気や老化が確定するわけではありません。

性格、身長、周囲の環境、靴、膝や腰の痛みなどでも歩く速度は変わります。

ただし、以前より明らかに歩くのが遅くなった場合は、体力が落ちているサインとして見逃さないほうがいいでしょう。

健康診断では、血圧や血液検査の数値を確認します。

それと同じように、

自分は以前と同じ速さで歩けているか

を定期的に確認することも大切です。

登山をして、歩くことの複雑さがわかった

僕は登山が好きです。

初めて本格的に山を歩いたとき、

「これは全人類がやったほうがいいのではないか」

と思うほど、全身を使っている感覚がありました。

登り坂では、心肺機能が必要です。

平地のようなスピードは出ていなくても、心拍数が上がり、呼吸がきつくなります。

さらに山道は、舗装された道路のように平らではありません。

岩、砂利、木の根、傾斜。

足を置く場所によって角度も高さも違います。

そのたびに、体は転ばないように姿勢を調整します。

足首、膝、股関節だけでなく、お腹や背中の筋肉も使います。

僕も初めて登山をした翌日、脚だけでなく、お腹まわりまで筋肉痛になりました。

体幹が天然のコルセットとして働き、不安定な場所で体を支えていたからです。

登山が優れているのは、単に脚を鍛えられるからではありません。

筋力、持久力、バランス、判断力を同時に使います。

歩くという基本動作の中に、全身運動の要素が詰まっているのです。

80代でも歩くのが速い患者さん

治療院に、80代を超えても元気に通われている患者さんがいます。

ある日、治療後に帰られる姿を見ていたのですが、とにかく歩くのが速い。

歩幅が大きく、姿勢も安定していて、年齢を感じさせない歩き方でした。

その方は、昔から水泳を続けています。

週に5回ほどプールへ行き、長年にわたって泳いでいるそうです。

毎回、限界まで追い込むような激しいトレーニングをしているわけではありません。

それでも、長く継続することで、

  • 心肺機能
  • 下半身の筋力
  • 体幹の安定性
  • 全身の持久力

が維持されているのだと思います。

健康を守るために、毎回ハードな運動をする必要はありません。

重要なのは、一度だけ頑張ることではなく、無理のない運動を長く続けることです。

週に一度だけ限界まで運動して、その後六日間動かないよりも、軽い運動を日常的に続けるほうが現実的です。

体は、たまに頑張った記憶より、普段どれだけ使われているかをよく見ています。

まずは1日5分だけ、速く歩く

歩くスピードが落ちてきた人に、最初から長時間のウォーキングは必要ありません。

まずは、いつもの移動の中で1日5分だけ速く歩くことから始めてください。

目安は、

  • 少し呼吸が速くなる
  • 体が少し温かくなる
  • 会話はできる
  • ただし、長く話し続けると少し息が切れる

くらいの速さです。

全力で歩く必要はありません。

通勤中、買い物へ行く途中、犬の散歩中など、普段の生活に5分だけ加えます。

新しく運動時間を確保しようとすると、多くの人は続きません。

着替えて、靴を履いて、外に出て、30分歩く。

これだけ準備が増えると、人間は驚くほど簡単に諦めます。

だからこそ、今ある移動をトレーニングに変えるのです。

健康は気合いではなく、続けられる仕組みで決まります。

歩幅を少し大きくする

歩くときは、スピードだけでなく、歩幅も少し意識してください。

歩幅が小さいと、膝から下だけを使った歩き方になりやすくなります。

一方、歩幅を少し大きくすると、股関節が動き、お尻や太ももなどの大きな筋肉を使いやすくなります。

ただし、無理に大股で歩く必要はありません。

普段よりも靴半分ほど前へ足を出すイメージで十分です。

意識するポイントは3つです。

  • 目線を少し前に向ける
  • 背中を丸めすぎない
  • 後ろ足で地面を押す

前へ足を投げ出すだけでは、歩幅は安定しません。

後ろ足で地面を押し、その反動で自然に前へ進むことが大切です。

自宅でできる3種目のサーキット

早歩きと一緒に行ってほしいのが、自宅でできる簡単なサーキットトレーニングです。

次の3種目を連続して行います。

1周でも構いません。

慣れてきたら、1〜2分休憩して2周目を行ってください。

1.椅子スクワット10回

椅子の前に立ち、両手を胸の前で組みます。

そこから、お尻を後ろへ引きながら椅子に座ります。

座ったら、かかとで床を押すように立ち上がります。

10回繰り返してください。

ポイントは、膝だけで動かないことです。

膝を前へ出しすぎるのではなく、股関節を折るようにお尻を後ろへ引きます。

立ち上がるときは、太ももの前だけでなく、お尻の筋肉も使う意識を持ちましょう。

椅子スクワットでは、

  • 太もも
  • お尻
  • 股関節
  • 体幹

をまとめて使えます。

歩幅を保つためにも、椅子から自力で立ち上がるためにも必要な筋肉です。

2.かかと上げ20回

椅子や壁の近くに立ち、必要であれば手を添えます。

両足のかかとをゆっくり上げ、つま先立ちになります。

一番高い位置で1秒止まり、ゆっくり下ろします。

これを20回行ってください。

反動を使って速く繰り返すよりも、ふくらはぎが縮んでいる感覚を確認しながら行うほうが効果的です。

ふくらはぎは「第二の心臓」と呼ばれることがあります。

歩いたり、かかとを上げたりすると、ふくらはぎの筋肉が収縮します。

この筋肉の動きがポンプのように働き、下半身の静脈血を心臓へ戻す働きを助けます。

長時間座っている人や運動不足の人は、ふくらはぎを動かす回数が減ります。

そのため、脚が重い、むくみやすいと感じる人にも、かかと上げは取り入れやすい運動です。

ただし、強いむくみ、片脚だけの腫れ、痛み、赤みがある場合は、運動だけで済ませず医療機関へ相談してください。

3.片足立ちを左右30秒

壁や椅子の近くに立ち、片足を少し浮かせます。

その状態で30秒キープします。

反対側も同じように行ってください。

ぐらぐらしないように、頭から支えている足まで一本の軸をつくるイメージです。

最初は、指先を壁や椅子へ軽く触れても構いません。

慣れてきたら、少しずつ手を離します。

片足立ちは、バランス能力だけでなく、

  • 足首の安定性
  • 股関節まわりの筋力
  • 体幹
  • 脳と体の連携

を使います。

歩行中は一瞬ごとに片足立ちになっています。

そのため、片足で安定して立てる能力は、歩くための土台です。

1回のメニュー

自宅では、次の順番で行います。

  1. 椅子スクワット10回
  2. かかと上げ20回
  3. 片足立ちを左右30秒ずつ

まずは1周で十分です。

余裕があれば、1〜2分休憩して2周行います。

すべて行っても、数分程度です。

運動は、難しい種目を増やすよりも、簡単な種目を継続するほうが大切です。

週に1回だけ完璧にやるのではなく、週3〜5回ほど、生活の中へ入れてください。

歩く速さを落とさないための習慣

歩く速さを維持するために必要なのは、特別なスポーツではありません。

日常生活の中で、

  • 1日5分だけ速く歩く
  • 歩幅を少し大きくする
  • 階段を使う
  • 椅子スクワットをする
  • かかと上げでふくらはぎを動かす
  • 片足立ちでバランスを鍛える

この程度から始めれば十分です。

大切なのは、歩く速さを他人と比べることではありません。

過去の自分と比べて、

  • 以前より遅くなっていないか
  • 歩幅が狭くなっていないか
  • すぐ疲れるようになっていないか
  • つまずくことが増えていないか

を確認してください。

急に歩けなくなった、片側の手足が動かしにくい、強いめまいやしびれがある、膝や腰に強い痛みがある場合は、トレーニングより先に医療機関へ相談する必要があります。

老化対策は、速く歩ける体をつくること

老化対策というと、化粧品、サプリメント、美容医療など、見た目を変える方法が注目されます。

もちろん、それらを否定する必要はありません。

ただ、顔が若く見えても、自分の脚で速く歩けなくなれば、行動できる範囲は狭くなります。

旅行へ行く。

買い物へ行く。

友人に会いに行く。

自分の好きな場所へ行く。

人生の自由は、自分の脚で移動できることに大きく支えられています。

だからこそ、歩く速さを守ることは、単なる運動ではありません。

将来の自由を守るための準備です。

今日からやることは、難しくありません。

いつもの道を、5分だけ速く歩く。

少しだけ歩幅を広げる。

家に帰ったら、椅子スクワット、かかと上げ、片足立ちを1周する。

老化は、ある日突然始まるものではありません。

毎日の小さな動作が減ることで、少しずつ進んでいきます。

反対に言えば、毎日の小さな運動を増やせば、体は変えられます。

健康は気合いじゃない、設計だ。

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この記事を書いた人

水上謙